風力発電100%で走るオランダの鉄道

風で走る電車

オランダの鉄道会社NSが、この1月1日からすべての電車を風力発電で走らせています。小さな国といっても九州ほどの面積におよそ1700万人が生活しているオランダで、鉄道が100%風力発電で走るというニュースは、にわかには信じがたいものでした。私はこの情報を先月、フェイスブックのシェアで知りましたが、当初は私が記事を見まちがえたのかもしれない、とさえ考えていました。私の身の回りのオランダ人の間でも、あまり話題になっているようには感じられなかったからです。

https://www.facebook.com/brightvibes/videos/644171875769455/

 

日本でどう受け止められるのか

しかし、最近、このニュースに関する新たな動画をSNSで見かけるようになりました。上にリンクしたのはBRIGHTVIBESというオランダのウェブメディアの動画です。鉄道と電力といえば、日本ではリニアの開発や原発の問題で世論を大きく分けています。このようなニュースが日本ではどのように受け止められるのか、私自身、大いに関心があります。そこで、この情報を自分なりにまとめてみることにしました。この記事はNSやENECOのウェブサイトなどにある情報を中心に、私が取捨選択して新たに構成するものです。

 

こちらの動画はオランダの鉄道会社NSの社長Roger van Boxtelさんが、電車を風力発電100%に切り替えると宣言して、自ら風に乗る、というものです。「私たちは多くのエネルギーを使っていて、環境によろしくない、だから変えなければいけない」と言っています。NSは、いったいどのようにして世界初の風力発電100%を実現したのでしょうか。オランダのエネルギー会社ENECOのニュースリリースページに、関連する資料を見つけました。日付を見ると2014年5月とあり、約3年前のものであることがわかります。そこには、3つのポイントが記されていました。

リンク◆ENECOのニュースリリース【2014年5月15日】

①「来年から電車の50%を新たなグリーン電力で動かし、2018年からは100%にします」

②「ENECOは鉄道会社とパートナーを組んで、新たなグリーン電力を供給します」

③「年間契約量は1.4T/Whで、1.2T/WhをNSに、0.2T/Whを他の鉄道会社に供給します」

 

ここでは、オランダだけでなく、ノルウェー、スウェーデン、ベルギーの風力発電所を活用し、例え風が吹かない場合でも、常に十分な電力を保証すると言っています。上のグラフにあるように、電力の半分をオランダでまかない、残りの半分は北欧を中心とした近隣諸国からまかなう計画だったようです。ここに挙げたグラフはENECOのウェブサイトにあったもので、誰でも自由にダウンロードできるようになっています。この資料を読み解けば、ENECOとNSの契約からわずか3年足らずで、しかも計画を1年早めて目標を達成したことになります。

リンク◆NS・SUSTAINABLE-ENERGY

一方のNSのウェブサイトにも、持続可能エネルギー活用についての説明がありました。オランダの鉄道が風力発電100%の電車を実現するための年間1.4T/Whのエネルギーは、オランダで使用されるすべての電力の1%、そして、アムステルダムの住民が1年間に使用するすべてのエネルギーに相当することや、どの国のどの風力発電所の電力をどのくらい使用するか、などの情報が示されています。リンクの先のグラフに従えば、実際の電力はオランダ、ベルギー、スウェーデン、フィンランドの風力発電所から供給されているようです。NSのYouTube動画は、ENECOと同じ2014年5月15日にリリースされています。

風の歴史と伝統

天然ガスを産出するオランダは、ガスによる火力発電の割合がもっとも高く、ほかのEU各国と比べて、風力発電の割合が特に高いというわけではないようです。しかし、オランダといえば風車の国です。長坂寿久著「オランダを知るための60章」(明石書店)に、どのように風車が活用されてきたか、その歴史が記されています。15世紀ごろには製粉のための風車が稼働し、その後、干拓用の風車が開発されると、16世紀にはオランダ全土に風車が配置され、湖の水をかき出して土地を作っていったと書かれています。風力の活用という意味で長い歴史があるのです。干拓された土地で牧畜が広がり、それが今日のおいしいチーズにもつながっていると考えると、オランダは風の恵みで発展してきた国といってもよいかもしれません。NSとENECOという大企業が組んで、風の歴史と伝統を今に生かす取り組みに、大きな希望を感じます。

オランダ人の反応は

しかし、やはり気になるのは、私の身の回りではあまり話題になっていないことです。そこで、オランダ人たちがどのように受け止めているのか、身近な人たちに聞いてみると、意外な答えが返ってきました。「そもそも知らなかった」、「いつも電車が遅れるのでNSには良いイメージがない」、「グリーンエネルギーの活用は当たり前の流れで、いまさら大きなニュースにはならない」、「今回のニュースが本当なのか、風力発電100%という書類を周りの国から買わされているだけではないのかと疑いたくなる」などの反応がありました。SNSでの反応を見ていても、このニュースに対して疑いの目で見る人が多いことも印象的でした。ここからの取材は今後の課題です。世界初と言われるこの取り組みに、引き続き注目していくつもりです。