「De Telescoop」設立によせて

「De Telescoop」は、世界で最も報道の自由度が高いといわれているオランダから発信する新しいメディアです。オランダを拠点として、ヨーロッパで活動する日本の企業や団体、個人の様子を発信していきます。また、市民の日常生活と結びついている教育や福祉、環境などの実情も取材して、日本に向けて発信します。私たちの情報発信が、日本の報道のあり方や社会のあり方を考えるきっかけになればうれしいです。

静岡県内の放送局で報道記者などとして、合計18年の経験を積んだ私がこの数年いつも感じていたことは、地方都市である静岡県が、世界中とつながっているということです。企業や大学、地方自治体などの組織から、職人やアーティストなどの個人に至るまで、いまや地方都市も海外と当たり前のようにつながっています。

しかし、報道の現場について考えてみると、地方の放送局にとって海外取材は人的、経済的、時間的なハードルが高く、ほとんど取材に出ることはできませんでした。インターネット上のメディアには海外からの配信記事が多く見られるようになったものの、報道機関における海外ニュースといえば、今も国際的な政治問題や大規模テロ事件など大手からの配信に限定されている気がしてなりません。その意味で、海外には日本のローカルニュースがたくさん埋もれていると感じています。

私のような地方の一記者がこれまで取材し発信してきたことといえば、人々の生活に結びつく話題が中心でした。例えば、新技術を開発した地元企業の話題、いじめ問題に取り組む学校や教育委員会の話題、地域活性化に取り組む自治体の話題などです。こうした問題を扱う時、海外ではどのように取り組んでいるのだろうか、と私は考えていました。社会的に成熟した国や地域の取り組みであれば、日本の地方にとっても参考になる事例がたくさんあるに違いないと考えています。

「De Telescoop」は、歴史的に日本と関係の深いオランダを中心として、ヨーロッパ全域で取材を行います。オランダは世界でも最も報道の自由度が高いと言われていることに加えて、成熟した社会で人権意識や生活満足度が高いといわれています。また、ドイツ、フランスなどの大国に挟まれ、これまでその情報が日本にあまり入ってきませんでした。私たちがオランダを取材拠点とするのはこのような理由からです。

私の出身地である静岡市はその昔、駿府と呼ばれていました。1609年7月、徳川家康は駿府城を訪問したオランダ使節に朱印状を交付し、長崎・平戸へのオランダ商館の設置を正式に許可しました。日本にとっては、これがヨーロッパと正式に行った初めての外交交渉であり、現在の日蘭関係の源流は静岡市にあるといっても過言ではありません。このような歴史をふまえ、私はオランダからの情報発信を通じて、日蘭関係の発展と深化に努めていくつもりです。どうぞよろしくお願い申し上げます。

2016年7月 鈴木 隆秀